【解説】「がんゲノム治療」患者の負担を軽減する最新治療 がんの性格に基づいた「テーラーメイド医療」に
全遺伝情報を調べた結果に基づいて診断や治療を適切に推進するための「ゲノム医療推進法」が、6月9日、参議院本会議で可決しました。
「ゲノム医療」とは、遺伝情報から病気を診断したり治療法を決めたりするもの。成立した法律には、遺伝情報による不当な差別などの課題に対応することも明記されています。
最新のがんのゲノム医療について、三重大学医学部附属病院ゲノム医療部教授の奥川喜永さんに話を聞きます。
注目を集める「がんでのゲノム治療」を解説
そもそも「ゲノム」とは何なのか解説します。
ヒトは1個の細胞に1個の核を持ち、その核には46本の染色体があります。この染色体の集まりを「ゲノム」といいます。この染色体を構成しているのがDNAで、この中に遺伝子があります。
ゲノム解析の研究の結果、病気は細胞のさまざまな変化で起きていることが分かってきました。そこで、今注目を集めているのが「がんでのゲノム治療」です。
◆がんが起こるメカニズム
ヒトには細胞がありますが、この細胞は新陳代謝などにより分裂を繰り返して新しい細胞に変わります。ただ、細胞分裂のときにコピーミスが起きてしまい、遺伝子の変化が、ある一定の頻度で起こってしまうのです。通常、遺伝子の変化を修復する機能も細胞は持ち合わせていて問題は起こりにくくなっていますが、修復できないこともあります。これが、がんにつながっていくのです。
病気の原因を遺伝子レベルで探る
――がん細胞に対して、ゲノム医療はどのようにアプローチして治療していくのでしょうか。
そもそも、がんに対してゲノム情報を使って治療しようと思うと、がんの性格となるゲノム情報を集めるところから始まります。そのために、がん遺伝子パネル検査という特殊な検査が、保険診療として2019年から提供できるようになりました。その情報を集めるというのが、まさに「がんゲノム医療」の窓口になります。
――画像にある「遺伝子の変化」の部分の原因を探ることが、「がんゲノム医療」の入口になるのでしょうか。
どんな遺伝子の変化があるのかは、同じがんでも患者さんによって違います。病気の原因を遺伝子レベルで突き詰めるところから始まります。
――具体的にはどのようにがんの治療につながっていくのでしょうか。
遺伝子の変化を知ることによって、例えば膵臓がんの患者さんを調べると、乳がんと同じ原因で膵臓がんになっていることが分かる方が実際にいます。
その場合、その患者さんは膵臓がんの薬より乳がんの薬のほうが効果が出るのではないか。そして実際に行ってみると本当に効果があることも、2015年ぐらいに証明されています。そのため、がんの性格を調べてそれに伴って、ほかのがんで使う薬も含めて、一番効果的な治療を行うことが「がんゲノム医療」となります。
――がんそれぞれの性格を知ることによってより効果的にアプローチできて、患者さんの負担も軽減されることにつながるのですね。
標準治療の多くは抗がん剤を使う治療です。その場合、正常な細胞にもダメージを与えてしまいます。しかし、「がんゲノム医療」では抗がん剤ではない「分子標的治療薬」といわれる、がんに特徴的な分子をターゲットとする薬で、抗がん剤よりも副作用が比較的少なく、効果も期待できるような薬が見つかる可能性があります。