シャワーヘッドの「小さな酸素の泡」でウニの身入りが1.5倍に 衰退危機の漁業に独自技術で光り

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今、漁業は高齢化や人手不足などで衰退が懸念されています。その危機を救う新たな技術として「泡の力」が注目されています。取り組みを取材しました。

シャワーヘッドの中で0.001ミリの泡を作り出す技術

シャワーヘッドが売り上げの95%を占める岐阜県のTKS。水に含まれる目に見えない"小さな泡"は「洗浄力」や「保湿効果」が高いとされ美容業界などから注目されています。独自の技術を用い、シャワーヘッドの中で"細かい泡"を作り出し、高速で回転させます。 すると、さらに細かい直径0.001ミリ未満の泡が大量に発生。TKSはこの技術を全く異なる分野で生かそうとしています。

シャワーヘッドのメーカーが養殖を開始

新たな事業の舞台は徳島県美波町。 アオリイカが旬を迎え、漁の最盛期を迎えていました。しかし、温暖化などの影響で漁獲量は減少。町の水産業は"衰退の危機"に立たされています。

由岐漁業協同組合 兵庫 賢美 副組合長:
「(船の)燃料が高いし「釣れる」「釣れない」の差が大きいので陸上養殖みたいなことができればありがたい」

そこで、この町でTKSが始めたのは"新しい養殖"の試みです。 育てる魚は…

TKS 研究開発部 山下貴敏部長 :
「マダイの稚魚です。成長のスピードを早めるために実験している」

「成長を早める」とは一体、どういうことなのでしょうか。

浮力の弱い酸素の泡を作り出し水槽へ

実は、この水槽にはシャワーヘッドの技術を応用した小さな泡が含まれています。レーザー光をあてないと確認できないほどの大きさで、浮力が弱いため何カ月も水中にとどまるといいます。 この泡を大量に発生させ、魚がいる水槽へ送ります。 泡には酸素が含まれていて"適切な量"を長期的に与えることでマダイの成長が促進されると見込んでいます。

養殖マダイの成長が1年に短縮

この実験は養殖のノウハウを持つ三井共同建設コンサルタントと2025年1月から実施。 通常、稚魚から養殖すると出荷まで1年3カ月ほどかかりますが、これを1年以内に短縮させたい考えです。

酸素の泡を供給するとウニの身が1.5倍に

“酸素の泡”を供給したウニの身入りが1.5倍に増える

実はTKSはすでに同様の実験をウニで成功させ、2024年5月に研究結果を発表しました。 酸素を目に見えない小さな泡にしてやせたウニに与えるとウニの身が増えることが判明。 3カ月で、身入りが1.5倍に増え、ポンプで酸素を供給する通常の水槽よりも成長しやすいことが分かりました。

しかし、成長が促進した仕組みについては分かっていない点もあり、『酸素を与える』以外に要因があるのか、“小さな泡"が成長に与える効果を引き続き、調べています。

日経新聞名古屋支社 道上拓矢 記者:
「水産業の衰退が懸念されるいま、各地で安定した漁獲量を確保できる陸上養殖が注目されています。今回開発した微細な泡の発生装置は中小規模の事業者にも導入が見込めます。TKSは今回の実験をモデルケースにより効率性の高い養殖の方法を全国に広めていきたい考えです。」

TKS 研究開発部 山下貴敏 部長:
「(養殖計画の)短縮によって光熱費が削減できるさらに、関係する人材の雇用も期待できる産業として大きくできないかという試みでもある」「この細かい泡を使った技術を徳島県の地域再生につなげていきたい」

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