食品サンプルでトップシェア「いわさき」工場に潜入 国内シェア7割を誇る精巧な技術
つやつやのエビチリ、サクッといい音が聞こえそうなカキフライなど、ついつい箸を伸ばしたくなる食品サンプル。一体、どのようにして本物に近づけているのか。食品サンプルでトップシェアを誇る「いわさき」(大阪市)の工場に潜入し、その工程を取材した。
リアルを追求する日本一の現場
食品サンプルの国内シェア7割を誇る「いわさき」。その工場は大阪市東住吉区にある。工場の奥に進むと、棚には営業の社員が使うさまざまな商品が並んでいた。これらの武器を携え、社員は全国のレストランに売り込みをかける。
工場内にある「吹き付けブース」をのぞくと、職人がエアブラシを手に、1つひとつ手作業で着色。さまざまなサンプルを生み出していた。円を描くように少しずつ塗料を吹き付け、微妙な濃淡を再現。職人技でリアルさを生み出している。
表面にしわを施した黄緑色の物体は、本物そっくりなナスに! 四角い物体の端には、黒い塗料を吹き付け。さらに繊細な作業で茶色を重ねていくと、出来上がったのは愛知県民が大好きなうなぎだ。最初の黒で皮目を作り、同系色の塗料を重ね、かば焼きの質感を見事に再現している。
「とんかつ」から「かつ丼」に レジェンド職人のこだわり
靴のような形をした物体は、全体に黄色の塗料をまとわせ、オレンジ色の粉にダイブ! 見た目も作り方も本物そっくりのとんかつが出来上がった。このとんかつを使って「かつ丼」を作る。
実演するのは、この道40年のレジェンド職人で、取締役の北出真司さんだ。包丁を手に取り、グッと力を込めて樹脂で作られたサンプルをカットする。
カットしたかつをご飯の上にのせるが、そこにも“細かすぎるこだわり”が。北出さんによると「多少ずれている方が料理としてはリアル」。かつを数ミリずつずらして配置することでちらりと断面が見え、リアルさが際立つのだ。
こうしたアイデアの源は普段の食事にあるそうで、北出さんは「社員全員そうだと思うが、「いただきます」で箸をつけるのではなく、ジロ〜ッとどんな風になっているのかを見てから食事している。妻と食事に行くと、やたら料理をジロジロ見るので「早く食べろ』といわれる」と話す。
ご飯にかつをのせた後は、マヨネーズのような黄色い液体と白い液体をかけていく。トロトロの液体は樹脂。200度の熱風が出る熱風器をかざすと、熱でやわらかくなった樹脂が風圧で広がり、卵の黄身と白身のトロッと感が生まれるという。
バランスを見ながら、熱風器で卵の状態を整えたあとは、全体にツヤを出すため、透明の樹脂でコーティング。みずみずしいツヤでしずる感を演出する。北出さんは「一番大事な作業。この作業が一番、達成感がある。すべての職人がこれを楽しみに仕事している」
そうして、レジェンドのこだわりが詰まった一品が完成した。サクサクかつにトロトロ卵。よし、今夜は「かつ丼」にしよう。