1セット1万2100円の観葉植物を買って、育てて、植林して、防災や林業に貢献 驚きのビジネスモデル
和歌山県田辺市の山中で、特別な思いを抱きながら山を見つめる女性がいます。奥川季花さん(28)は、2011年の紀伊半島豪雨で友人を失い、その経験から「土砂災害ゼロ」を目指して林業ベンチャー企業「ソマノベース」を立ち上げました。そんな奥川さんの取り組みを取材しました。
紀伊半島豪雨と奥川さんの決意
2011年の紀伊半島豪雨では、88人の死者・行方不明者が出ました。当時高校1年生だった奥川季花さんも被災し、友人を失ったのです。この経験から「もう一度このような災害で亡くなる人をなくしたい」と、強い思いを抱くようになりました。
林業の課題と「ソマノベース」の設立
日本国内の土砂災害発生件数は右肩上がりに推移しています。木材の価格低迷により、伐採後に再び植林すると赤字になる可能性があるため、放置される山が増加しています。これが土壌をつなぎとめていた樹木の根を弱くし、傾斜が急な場所ほど災害リスクが高まる原因となっています。そこで奥川さんは「土砂災害ゼロ」を目指す林業ベンチャー企業「ソマノベース」を立ち上げました。
「戻り苗」の仕組みと効果
ソマノベースのビジネスの中心は「戻り苗」です。生命力が強く育てやすい広葉樹「ウバメガシ」のドングリと、紀州産の木材でつくられた鉢などをセットにして、オンラインストアで販売しています。
ソマノベース 社長 奥川季花さん:
「苗木を育てる体験を一般の方にしてもらうことによって、山とか災害に関しての関心を高めることを目指しています」
購入者は苗を2年間育てたあと、自費で送り返すか、植林ツアーに参加して植林します。苗の代金の一部は植えた苗を管理する林業会社に還元され、林業の収益アップにもつながる仕組みです。
これまでに育てられた苗木は3000本以上。購入者は「育てた木を森に返して自分の目で確かめられるという手触り感が良い」と話します。
個人や企業の共感と参加
個人だけでなく、地元の信用金庫や製造業、建設関連企業もソマノベースの取り組みに共感しています。JR西日本は約400本の購入を決定。現在、60社を超える企業が導入しています。
日本経済新聞社 和歌山支局 田村広済支局長:
「防災や林業というのは利益が出にくいので民間の進出がどうしても遅れてしまいます。戻り苗は色んな業種や企業・団体・個人を手軽に防災・林業に巻き込んでいける力があります」