ARを活用して新幹線の流線型の「顔」をつくる職人の技を伝承 現在5人しかいない職人を増やせ

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新幹線の先頭車両は職人の高い溶接技術で作られる

流線形が特徴の新幹線の先頭車両。この形をつくりだすのには、高い溶接技術が求められます。一方で、その技術の伝承が問題となっています。そこで、新幹線の車両メーカーが技術者の世代交代のために取り入れた秘密兵器とは?

【動画で見る】新幹線の顔つくる溶接工 ARで育成

溶接技術の重要性と現状

溶接に使うトーチ

愛知県豊川市にある日本車輌製造では、東海道新幹線の最新車両N700Sの製造が進められています。新幹線の先頭車両の製造には、高度な溶接技術が必要です。「トーチ」といわれる道具を使って高圧電流で金属を溶かし、隙間を埋めていきます。

手元をよく見ると、トーチの先を小刻みに動かしているのがわかります。ウィービングと呼ばれる高等技術です。

ウィービングで仕上げた溶接の跡

溶接のあとを見ると、まるで波のよう。溶接の強度を増すために必要な技です。これをきれいに磨き上げれば、先頭車両の形ができます。

複雑なアルミの形状に対応し、さまざまな姿勢で溶接を行う必要があります。現在、先頭車両の溶接ができるのは120人中たったの5人のみ。溶接工の高齢化が進む中、技術の伝承が急務です。

「溶接道場」で若手社員を育成

5年前に溶接道場を設立

日本車輌製造では、5年前に溶接道場を設立し、若手社員の育成を進めています。師範役は入社44年目のベテラン溶接工の森勝利さんが務め、入社3年目の外山心音さんなど若手社員に指導。今のところ、担当するのは小さな部品ばかりですが、溶接の仕事は火花や目に有害なアーク光など危険が伴います。

溶接工の新人研修

従来の研修では若手ひとりひとりにベテランがマンツーマンでついていましたが、新人を増やせば増やすほどベテランの溶接工が研修に時間をとられ、工場全体の生産性が落ちてしまう問題がありました。

AR溶接シミュレーターの導入

AR溶接シミュレーター

そこで導入されたのがAR溶接シミュレーターです。ARゴーグルを通して溶接の疑似体験ができるこの装置は、トーチの角度や距離が正しいとガイドの色が緑色に変わり、誤っている場合は赤に変わります。これにより、新入社員1人でも訓練が可能となり、指導する側の効率も大幅に向上しました。

日本車輛製造 製造部 外山心音さん

トーチの角度や距離が正しいと、ガイドの色が緑色にかわります。ガイドが緑色になったのを確認したら、溶接開始。トーチの構えが正しくないとガイドが赤に。ガイドを見ながら手先の感覚を覚えていきます。

日本車輛製造 製造部 外山心音さん:
「溶接のやり出しから、後にかけてトーチの角度が動いてしまうので、そこを安定させたいです」

効果と今後の展望

日本車輛製造 製造部 テクニカルスーパーバイザー 森勝利さん

日本車輛製造 製造部 テクニカルスーパーバイザー
森勝利さん:
「私が入社した当時はこのような機械はなく、実際にトーチは1年くらい握らせてもらえませんでした。新幹線に関しても形も変わるし材質も変わる。いろいろなことが変わっているので、これからの時代にあった教育をしていかなければな、と思っています」

日本経済新聞社 名古屋支社 石原誠樹記者:
「このAR溶接シミュレーターは、新入社員の育成だけでなく、中堅やベテラン社員が自分の癖を知る目的で使うこともあります。これまで感覚に頼っていた溶接技術の一部を可視化し、再現性の向上に役立っています」

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