価格は通常の生のイワシの倍近く「大トロいわし」 サケ・イカ・サンマ不漁の北海道の最新イワシビジネス
北海道・十勝の水産加工業者が近年、急激に売り上げを伸ばしています。背景には原料の豊漁に加え「量から質」へ戦略方針の転換がありました。
10月上旬、北海道・十勝港で揚がってきたのはマイワシです。近年、海水温の上昇などの影響で、サケやイカ、サンマなどの漁獲量が減少。代わりにマイワシの漁獲高が増加しています。
十勝港近くの水産会社は、マイワシを中心に取り扱い、豊漁を背景に売り上げを伸ばしています。主力商品はマイワシから作られる魚油と魚粉で、養殖魚の餌の原料として使われています。
高付加価値製品「大トロいわし」の開発
十勝港の近くにある水産会社、池下産業株式会社はマイワシのビジネス拡大を目指し、10億円以上を投じて新しい加工場を建設しました。そこで生産されるのが「大トロいわし」です。
産卵前の9月から10月にかけて獲れる体脂肪率15%以上の大ぶりのマイワシを使用し、目利きが1000匹に1匹という割合で選別。水揚げ後、10時間以内に液体窒素で急速冷凍することで高い品質を保ちます。
この「大トロいわし」は大手回転寿司チェーンや料亭などでも採用され、客からは「青魚特有の臭みがなく、甘くてふっくら」と評価されています。
不漁時にも対応するビジネス戦略
しかし豊漁が続くわけではなく、不漁の時もあります。北海道のマイワシ漁獲量は1990年代には100万5257トンの漁獲量でしたが、2000年には771トンと約1300分の1まで減少したこともあり、将来の水揚げ量は見通せません。
日本経済新聞社 札幌支社 塚田源記者:
「急増するイワシも過去には激減した過去があり、数年先の水揚げが見通せないのが現状です。そうしたなか少ない水揚げ量でも、採算を保つために高付加価値化を進めていくことは重要な戦略となります」
そこで池下産業は既存商品の高付加価値化にも取り組んでいます。例えば、EPAやDHAなどの栄養素を3割ほど含む魚油は、一般的な魚油より2割以上高く売れ、医薬品や健康食品の原料としても使われています。
魚油の品質向上の秘密は、原料となるマイワシの鮮度です。飼料用の魚粉や魚油では原料の品質が問われないことが多いですが、池下産業では鮮度を重視。船の水槽にマイワシを詰め過ぎず、イワシ同士が傷つかないようにするなどの工夫をしています。この高品質な魚油は、南米やインド、中東といった海外にも販路を拡大しています。
池下産業の取り組みは、漁業の新時代を切り開いています。
池下産業 社長 池下藤一郎さん:
「もっともっといいクオリティのものを提供していくために何が必要なのか、僕らも日々進化していきたいです」