宿泊ニーズを取りこぼすな ホテルにも宿舎にも被災地支援にも使える「動く家」への注目拡大
宿泊施設が足りない地域で今、「動く家」が注目されています。「動く家」とは一体、何なのか、そしてなぜ今、注目を集めているのか、取材しました。
移動可能な「ムービングハウス」に注目集まる
北海道千歳市で巨大なラピダスの半導体工場の建設が進んでいます。工事に伴い、作業の関係者の宿泊需要が高まることを見越して、JR北海道のグループ会社が2024年3月に新しいホテル「ムービングハウス」をオープンしました。
このホテルは細長いシングルタイプの部屋を提供し、長期滞在者向けに洗濯機やシンクなども備えています。料金は1泊7000円から1万円台前半です。
北海道ジェイ・アール都市開発 高橋忍部長:
「移設や増設が可能な建物として非常に魅力を感じて採用しました。工期が短縮できるのも大きなメリット。着工から約5カ月で竣工しました」
稼働率も9割と好調です。
地元企業「アーキビジョン21」が製造
ムービングハウスを製造するのは千歳市の住宅メーカー「アーキビジョン21」です。工程は柱や屋根など外枠の組み立てに2、3日、場所を移してトレーラーの荷台に乗せた状態で進みながら外壁や内装を仕上げていきます。最短2週間ほどで完成です。
100%木造建築のため居住性が高く、断熱性・気密性にも優れています。ラピダス関連の工事で働く人たちの宿舎としても利用されており、11月までにできる600室以上がすでに満室です。
日本経済新聞社 札幌支社 塚田源記者:
「ムービングハウスは1ユニットあたり1000万円程度の大きすぎない投資で用意でき、客室数など規模を柔軟に変えられる点に引き合いがあるようです。観光客やインバウンドが増えているものの、ホテルや旅館が少なく宿泊ニーズを取りこぼしてしまっている自治体も少なくありません。そうした自治体には新しいソリューションになるかもしれません」
災害時にも活用される新しい取り組み
アーキビジョン21は2023年度の売上がグループ全体でおよそ70億円と、2年間で倍増しました。ムービングハウスの占める割合はほぼ100%。約6年で累計1600ユニットを販売し、2024年だけで1000ユニット以上になる見通しです。また、災害時には仮設住宅としても活用され、1月の能登半島地震では500世帯分を現地に届け、さらに100世帯分以上を送る予定です。
「防災・家バンクホテル」の新コンセプト
アーキビジョン21の丹野正則社長は「防災・家バンクホテル」という新しい取り組みを始めています。平時はホテル、災害時は被災地の仮設住宅として利用されるコンセプトです。2020年に1号店を開業しましたが、現在はすべて被災地へ提供されています。ホテル営業は1月から停止していますが、自治体から仮設住宅としてレンタル料が支払われています。