ビル1棟が丸ごと製氷機 凍らないギリギリの温度の水も 独自の発想と技術で進化する製氷機メーカー
大手メーカーにはない独自の発想と技術で、客のニーズをつかみ続ける製氷機メーカーがあります。常に進化を続ける企業の裏側と挑戦を追いました。
ビル1棟丸ごと製氷機
漁港の日課のひとつとしてあるのが、2日かけて作った大きな氷を船着き場まで運ぶこと。しかし、こうした光景は、消えつつあります。
長崎県平戸市の漁港。漁港に立つ1棟のビル。中に入ると床一面に氷。じつはビル1棟丸ごと製氷機なのです。マイナス15℃の冷却板に水を流して氷を作り、割って細かくしていく製法です。最初から砕いた氷を作ることができます。
製氷機を作ったのはアイスマン株式会社。用途に合った機械を柔軟に作れる技術力が、同社の強みです。アイスマンの丸ごと製氷機のビルから伸びたパイプで、漁船に楽に氷を24時間積み込みが可能。産業用製氷機を国内だけではなく、アジアにも広げています。
氷自身の圧力で固まる「根氷」になる
魚の鮮度の鍵を握るのはやはり氷。アイスマンの井植哲二取締役は「ただ氷はたくさん貯まってくると、氷自身の重みの圧力で固まってくるんです」と話します。
氷の重みで下にたまった氷がくっついてしまい、大きな氷の塊、「根氷(ねごおり)」になってしまいます。アイスマンは装置の底にキャタピラ式のコンベヤーを付け、底にできる氷から先に取り出す仕組みを開発。根氷問題をなくしました。
この特許技術が長時間の装置稼働を可能にし、設備の大型化にもつながりました。現在は全国250カ所以上の漁港や工場がアイスマンの製氷機を採用しています。そしてアイスマンは、部品のカッターも自社で製造しているのです。
例えば、野菜を傷つけずに冷やすことができるフレーク状の氷。瞬時に凍らせた薄い氷を、特殊な刃で削る必要があります。重要部品の内製化による差別化で、これを可能にしました。
「いろいろな改善・改良を繰り返しています。自社での部品製作にこだわっています」
「水」が次世代技術に
海水から通常の氷より冷たいシャーベット状の氷を作る製氷機。氷を砕いて雪を作る、ゲレンデの人工造雪機は、国内シェアトップです。開発中の次世代技術が水?
アイスマン 井植哲二取締役:
「食品加工で急激に冷やしたいときに1℃の液体が一番効果的なんです」
氷でもない、1℃の水。野菜や加工食品は凍らせるより温度の低い水で冷やすほうが、おいしさが保てるといいます。
冷却板の表面が凍る瞬間の周波数を感知して、装置のスイッチをオフ。凍結寸前の水を作ります。0.1℃以内で制御し、「冷たい水」という新たな冷やす技術を確立したのです。
日本経済新聞社 鎌谷 将平記者:
「アイスマンはノウハウの蓄積も多く、海外への輸出も多いです。気候や用途などに最適な冷却技術の開発が強みです。『冷やす』で広がる新しい分野をつくっていける企業です」