藤井聡太さん愛用の座布団「将棋盤の高さで棋士の気持ちが変わる」下町のメーカーが工夫凝らして注文殺到
2023年に史上初の八冠を達成した藤井聡太さんをはじめ、プロ棋士を支える座布団。この座布団は、愛知県蒲郡市に工場を構える「シーエンジ」が手がけたものだ。もともと高速道路の分岐帯にある衝撃吸収材を製造していたため、座布団は門外漢。だが、いまでは「ニトリ」をはじめとする大手から問い合わせが殺到するほどになっている。
プロ棋士が愛用する座布団はどのように生み出されるのだろうか。
シーエンジの工場内に入ると、中には白くて四角いスポンジのようなものがあり、その表面には細かい穴が開いていた。取材班が高岡佳久社長を訪ねると、さっそく藤井聡太さんが座っている座布団と同じ製品を見せてくれた。
中には細かい糸が複雑に絡み合った高反発クッション材が入っている。高反発で沈み込みにくい性質を持ち、このクッションのおかげで長時間正座をしても足がしびれにくいそうだ。プロ棋士たちの足の負担も、かなり軽減されるという。
日用品などを扱う「ニトリ」の人気寝具「Nスリープ」の中身にも採用。さらに「シーエンジ」では、クッション材だけでなく、クッションを生み出す機械も製造しているため、工場内には秘密も多い。
水槽内に水中カメラを設置
クッション材の材料になるのは、粒状のポリエチレンだ。まずは、ポリエチレンが管を通っていくつもの機械を経由し、緑の機械の上へ。赤い部分で180℃に熱し、溶かしていく。
緑の機械がスライドした先には水槽があり、機械から、ウニョウニョした白い糸が落ちていった。
この正体はポリエチレンを熱で溶かしたもので、細さ約1ミリの糸状にしてぐっと押し出す。そして水に入ると、複雑に絡み合いながら固まっていく。マットレスの中の独特な構造は、この工程で作られている。
水槽の真上や水中に設置したカメラで見てみると、糸状だったポリエチレンが機械の中で成形され、白い塊に。その塊がまるでドラゴンのように、水面を目指して浮き上がっていく。
水槽から出てきた長いマットレスは、強度を高める企業秘密の工程を経て、中にたまった水を落とす機械へ。ポリエチレンなので、振動を与えるだけで水を切ることができる。